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『ヨコハマ買い出し紀行』 [Book]


ヨコハマ買い出し紀行 1 新装版 (アフタヌーンKC)

ヨコハマ買い出し紀行 1 新装版 (アフタヌーンKC)

  • 作者: 芦奈野 ひとし
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/10/23
  • メディア: コミック


3.11の震災で僕は直接の被災はしなかったのですが、心の揺れは予想以上に大きく、僕なりのショックと不安で情けないことに半月以上無気力になってしまい、本を読む気が失せてしまいました。ですが唯一このマンガ、芦奈野ひとしの『ヨコハマ買い出し紀行』だけは不思議と読めました。

過去に通読したのは一度。毎晩寝る前のベッドの仄暗い読書灯で2~3エピソードずつ読んで、静かな深い感動とともに読み終えるころには、心がだいぶ落ち着きを取り戻してきました。「癒される」という言葉はあまり好きじゃないのだけれど、「日常ファンタジー」とでも言うべきこの穏やかで、じんわりと人の魂を慰撫するような作品を「こんなとき」に読んだことは、生涯忘れないだろうと思います。

ご存じのない方は手にとってほしいと思います。

いつはじまってもいいようないつ終わってもいいような起伏に欠けた物語ですが、人間のつつましやかな暮らしの繰返しのなかで起こるささやかな喜びをみつめ、今ここにある日々というものがほんとうは奇跡なんだと愛し慈しむようなまなざしを、一人でも多くの人が、少しでもつよく持ってくれればいいな、と思います。
空や風、水、季節、雨、雨上がり、水たまり、深い草、そうした自然の風物のきらめきを感じることができて、身近の親しい愛する存在たちとお互いの気持がやんわりと通じ合っていれば、世界がいかに絶望に近づいても、希望をもって生きられるのではないか、と、いい年をして何アタリマエのことのたまってるんだ?と言われそうですが、今回改めて読んで思いました。続いていくはずの日常が大きな力によって揺らいで亀裂が走ったりして、目に見える風景に翳りができたとしても、大切なものは何一つ変わらないのだと確信できる、そんなふうに思わされました。


wikipediaより解説の抜粋。

『ヨコハマ買い出し紀行』(ヨコハマかいだしきこう)は、芦奈野ひとしによる日本の漫画作品。『月刊アフタヌーン』(講談社)において1994年から2006年まで連載された。単行本全14巻、新装版全10巻。

「お祭りのようだった世の中」がゆっくりと落ち着き、のちに「夕凪の時代」と呼ばれる近未来の日本(主に三浦半島を中心とした関東地方)を舞台に、「ロボットの人」である主人公初瀬野アルファとその周囲の人々の織りなす「てろてろ」とした時間を描いた作品。

作中の社会状況は、明言はされていないが、断片的な記述を総合すると、地球温暖化が進んで海面上昇が続き、物資は欠乏(米などの生活必需品も入手困難)、治安は現在よりも悪化(来客への応対時や配達時に護身のため鉄砲を携帯)、人口が激減したことなどが示されている。総じて、人類の文明社会が徐々に衰退し滅びに向かっていることが示唆されている。

しかし、その世界に悲壮感はなく、人々はむしろ平穏に満ちた日々を暮らしている。また、詳しくは語られない正体不明の存在も多く、そのまま作中の日常世界に組み込まれている。これらの不思議については作中で真相が明かされることはなく、どう解釈するかは読者に任されている。

なお原作終了後に刊行された小説版(著:香月照葉)では、「夕凪の時代」の後に人口はさらに減少を続け、ほぼ滅亡状態となった「人の夜」を迎えた、としている。
各話は、登場人物の私的な日常を軸に展開し、また「ロボットの人」たちが周囲から、「ロボットという事は個性のひとつ」として受け入れられて生活している様子をとらえている。


主人公は、あるいはロボットたちは、「滅んでゆく人間」を記憶する存在だと僕は解釈する。人工の存在が、人間がいなくなったあとも「人間がいたこと」を語り継いでいくんだろう、と確信させられる。愛もあれば感性も豊かなロボットは、やがて世界の水没に伴い人間が滅んでゆくことを知っているから大いなる慈しみでもって人間をやさしくみつめているし、やがて自分たちが滅んでゆくことを知っている人間たちは、ゆるやかな絶望のなかで同時に何か突き抜けたような希望を持ってもいる。設定は暗いのだけど、たそがれ時の美しさのようなせつない明るさが作中に満ちていて、その空気感を楽しめることができれば、この作品は生涯にわたっての大切な作品になると思う。

作中、(大きく減少した)人間の住んでいた場所で、「場所それ自体」が、ここに「人間のいたこと」を特定の自然現象として誕生させている。かつて道のあった場所に、ぼんやりと光る街灯型の丈の長い植物が群生したり、海を見つめる高台に生えて海の方角をみつめる、人間の形をした白いキノコがあったり。こわくて、不思議で、かなしい。それらにたいして何の説明もない。
人類が全部いなくなっても、地球の自然の側と人間の作ったロボットたちで、人間の記憶を生かしていく。生命の消滅を超えたなにかの力が、消えた生命たちを別の形式で生かしていく。扱いようによってはいかようにもテーマを盛り込める強烈なSF的世界観のなかで、これほどまでにおだやかに進行し、詩的なかがやきをたたえた創作物を僕は知らない。

ヨコハマ買い出し紀行 1 (アフタヌーンKC)

ヨコハマ買い出し紀行 1 (アフタヌーンKC)

  • 作者: 芦奈野 ひとし
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1995/08
  • メディア: コミック




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コメント 2

plant

こんにちは。
何年も新しい漫画の発掘をしていなかったのですが、この記事を見て、この作品を探してみよう、と思いました。
by plant (2011-04-18 08:13) 

astro

>plantさん
こんにちは。ありがとうございます。ゆる~い作品ですが、じわじわと染みてくるものがあります。
by astro (2011-04-18 11:36) 

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