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新しいものの入り口を閉ざさない~「わたしたちに許された特別な時間の終わり」岡田利規(新潮文庫) [Book]


わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

  • 作者: 岡田 利規
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/12/24
  • メディア: 文庫


■宣伝文

「あ、始まったんだねやっぱり戦争。イラク空爆のそのときに、渋谷のラブホで4泊5日。――井上ひさし氏、野田秀樹氏らに激賞された、岸田賞受賞作「三月の5日間」を小説化。フリーター夫婦の日常を描いた「わたしの場所の複数」を併録。とらえどころのない現代を巧みに描く新鋭、チェルフィッチュこと、超リアル日本語演劇の旗手、待望の小説デビュー!」 第二回大江健三郎賞受賞作。


■感想あるいはこの小説を読んで、この小説についてのレビューを読んで感じたこと

僕はこの小説にとても感銘を受けました。正確に言うと大きな「刺激」を受けました。
僕は「自分個人の小説観」という評価基準に照らして、この小説2作品を非常に良質な文学だと思いました。「自分の小説についての価値基準」ですので、他の人がどう読むのか、何を感じるのかはわかりません。

「ある小説観」に照らせば、この作品は非常に退屈で、読み進めるのも困難な小説だと思います。
たとえば「小説とは物語の面白さである」と信じて小説を手に取る読者がこの作品に遭遇したら、ちょっとした苦痛を感じるかもしれません。起伏に富んだ「おもしろい物語」を求めることと、文章それ自体への試みや実験を求める感性は、なかなか同時に成立しないものだと思います。キャメロンの映画「タイタニック」を本当に面白いと感じる女性が、タルコフスキーの映像詩「ノスタルジア」も本当に面白いと感じる可能性は、ゼロではないにしろ、非常に低いと思われます。

いい悪いではなく、人の感受性は多様だということです。

「わたしたちに許された特別な時間の終わり」所収の中篇2作品は、「人称の常識」をいともあっさりと破るという文学的挑戦を試みている(興味があるひとは買って読んでみてください)ので、「これまでの自分の読書経験で培われた読解力」で対応できないことを’肯定的にとらえられない’読者がいるとしたら「ん?なんだこれ?」と、大いに戸惑うことでしょう。ストーリーなど、あってないようなものです。

くり返しますが、僕はこの小説2編を全面的に肯定したい、それほど感銘を受けました。内容については触れませんが、せつなくなり、苦しくなり、希望を感じ、僕たちが生きているこの世界のことが、小説を読む前よりも愛おしくなりました。そういう読書体験は僕が最も求めているものです。

小説には実にいろいろな形式や作風があり、それを「面白い/つまらない」と感じる読者の側の小説観もまた、無数にある。

あまりそういうことをすることはないのですが、この小説を僕以外の人はどのように読んだのだろうか、何を感じたのだろうか? ということが少し気になり、Webで「わたしたちに許された特別な時間の終わり」についての感想をチラチラ読んでみました。それらを読んで思ったことが、僕に前段のような文章を書かせたのだと思います。正直に言うと僕はイライラしてしまいました。イライラしてもまったくしょうがないのですけれど。

twitterでも書いたのですが、 自分個人の「好き/嫌い」「わかる/わからない」をそのまま作品の「良し/悪し」だと、けっこう横柄な口調で断じている人が多いんですね。自分の価値基準を信じるのは、僕もそうだし、構わないのですが、「つまらん→ダメだこんな小説」と断じ、そこで完結している盲目性が、匿名性のヴェールの内側の独善的な性格と結びついて、醜悪だということです。
「自分にはダメだった」「自分には理解できなかった」のを「作品がダメだから」にためらいもなく置換する、内省を欠いたその傲慢を、僕は不快だと感じたのだと思います。もっとも、読者レビューだけじゃなくて、そういう思考パターンの人って結構いますけどね。

つらつら書いてきてしまいましたが、要は(要はってイヤな言葉ですね)、
作品を理解できないのは作者のせいだけじゃないからね、ってことを思ったわけです。あなた自身が閉じているせいで、新しいものが入ってくる入り口がないだけなんだよ、と。・・・まあこれはレビューについての感想なので、作品それ自体には関係ありません。

好き/嫌いでいいのです。素人なんだから。僕は本編2作のことが好きです。「好きな根拠」を書けと言われれば書けますし、逆に僕が「つまらない」と感じた小説があって「嫌いな理由」を書けと言われれば、書けます。ただ、とにかく、自分の「好き/嫌い」というものは、対象となる作品の「良し/悪し」とは本来無関係なのだよ、と、この小説集を読んだことに端を発し、思った次第です。
タグ:岡田利規
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