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映画 『トウキョウソナタ』(黒沢清) [Movie]


トウキョウソナタ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • メディア: DVD




前日にコーエン兄弟の『バーン・アフター・リーディング』を観て面白いなァと感心したんですが、本作『トウキョウソナタ』はその上空、更に澄みわたる気圏を優雅に飛んでいくかのような傑作で、黒沢清こそ、現在の日本映画界を代表する一流作家であるという思いを新たにしたのでした。
映画作家としてこちらのほうが1枚も2枚も上手、というか、違うな、上下じゃない、資質が異なる。「表現者として立っている場所」が違う。

コーエン兄弟の作品を久しぶりに観て「やっぱり映画って脚本だよね、脚本ってホントに大事だよ」と思ったのでしたが、いやいや映画にはそれよりも大切なものがあるじゃん、お前はそれをもう忘れちゃってるの?と、もう一段階深い部分で自問させられました。

それは作者の「意志」のようなもの、世界とどう関わり、何をみつめ、何を見出し、何を伝えたいのか、という表現者の情熱や矜持のようなもので、2時間の娯楽を提供しながら、観客の「その後の時間」に働きかける、観客の精神にゆさぶりをかける、しなやかで強い力です。
映画のジャンルや作風は無数にあり、無数の観点があると思いますが、僕が映画を観るときにいちばん触れたいと願っているのは、その種のパワーなのだと、再認識させられました。ま、映画に限らず、文学に関してもそうですけど。


で、その『トウキョウソナタ』です。国内外のたくさんの賞を受賞しているようですね。頷けます。
とりたてて真新しいテーマでも、手法でもありません。ありふれた都会の家族の崩壊と希望を、すり足をしつつ不意に跳躍するような、静謐に狂気を織り交ぜた演出で描いていきます。

作品を徹頭徹尾貫くある種の「危うさ」、静かなトーンのなかに、予定調和から不意に暴力的にはみ出るんじゃないかという緊張感をこちらに抱かせるその危険な資質が、この黒沢清という監督の類稀な才能なんだと、僕は思います。才気に押し付けがましさがなく、つまり成熟しており、大人の余裕を感じますね。

失職したことを言えず、それでも自らの威厳で一家を覆い、守ろうとする父。
家族と国家を守る為に、家を飛び出して米軍に従軍し、イラクへ向かう長男。
小学校で孤立し、またピアノへの興味を父親に認められず、子供ながらにドロップアウトしていく次男。
そして、静かに崩壊していく家族の闇を見つめながら、言葉を飲み込む母。

4人の熱演が、暗い輝きを鈍く放ちつつ、悲劇の背後にぴったりと滑稽なユーモアをはらませつつ、作品を見事に構成しています。香川照之と小泉今日子の芝居は迫力があり、役柄にみごとにハマっています。ワンダフルです。

というわけで僕としては「名作です」と言ってしまいたい。
ラストシーンの美しさも、言うことなし。最後、ちょっと涙が出てしまいました。
ぜひぜひ、DVDをレンタルしてほしいと思います。
こういう映画がわが国で作られているということに誇りを感じます。人が病んだり死んだりそして蘇ったりという内容の、予告編を観ただけで大体内容のすべてがわかってしまうような、あからさまに「泣ける」映画ばっかりじゃ、ツマラナイもの。
タグ:黒沢清
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