SSブログ

田園の写真 [Poetry]

ディスプレイに表示した田園風景の写真、右奥の、小川のわきの、夏の小さなオレンジ色の花がたくさん咲いている、細いあぜ道を、日傘を差して歩く婦人のその奥に小さく鳥居が写りこんでいて、その鳥居からまっすぐに伸びる苔の蒸した石段を、のぼる。石段の両脇はこんもりとした森で、蝉の声が土砂降りのように降り注ぎ、木陰が日光を遮りはしているものの湿気の高い蒸し暑さを増している。神社の境内へ上がりきったところですれ違った男が、その石段を降りて最寄の「つきが原」バス停から「水瀬役場行き」のバスに乗りパタパタと扇子をあおり、バスが市内の中心を流れる川の脇を過ぎたところで、扇子をあおいでもいっこうに汗がとまらない男の脇にいた、別の男が立ち上がり、「相原産科前」で降りた。相原産婦人科の203号室の6人部屋の窓際で、妻がベッドに腰掛けて、6日前に生まれた「勇気」という男の子を抱いており、振り返ると、「ほら、パパがきたわよ」と笑顔をみせ、「パパ」は「勇気」の頬に頬ずりをしたあと、商店街の「望月フラワー」で買ってきたクチナシの花をテレビ台の花瓶に生けて、同じ病室の入り口のベッド脇の椅子から立ち上がった男が帰りに実母への電話をした、その電話機を15分前に使った、東京から帰省している美大生の女性が撮った写真を、今、見ている。そのときから26年あとの夏だ。

思いつきで昼休みのラスト20分で小説が書けるかと思って試してみた。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。