SSブログ

『福翁自伝』(福澤 諭吉) [Book]

『福翁自伝』(福澤 諭吉) PHP研究所

福翁自伝

福翁自伝

  • 作者: 福澤 諭吉
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2009/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


かの福沢諭吉の自伝です。
自伝というジャンルはあまり読んだことはありませんでした。人物の魅力に触れ、そこから何を感じ、自らに取り込めるか。これが自伝を読む楽しみなんだなと知りました。そんなの当然か(笑) まあ、面白かったです。自己への誉れやナルシシズムを垣間みせず、清々しい語り口。かんたんに感想書きます。

本自伝を読んだ僕の福沢諭吉像というのは、まず第一に、高潔だということ。高潔という言葉がこれほど当てはまる人物は知りません。すさまじいまでの潔癖さで、自らの倫理を貫いています。その信念とは何なのか。独立の精神と言えるでしょう。まさに時代が革まる時、大きな変化のうねりの中に生きながら、体制に属さず、個であることを貫徹しています。これほどの知者でありながら奢ることなく、信念を全うしている。その強靭な意志の力が凄い。変化を具体的に推進していった数多の幕末の偉人たちの中にありながら、その点において異彩を放っています。
隠者ではないですが、表舞台に立てる能力のあることを自他共に認めながら、政治(まつりごと)には一切関わらない。この性質をどう捉えるかで、評価の分かれるひとでしょうね。

この潔癖さの根源は、封建制度への強い反発(学問を志しながら下級武士として生涯を終えざるを得なかった父の無念)から始まっているようです。閉鎖的な環境や自由意志が許されない状況を、生涯に渡って忌み嫌っている。それからたとえば、旧幕臣が新政府の要人として平気な顔で居座るのを批判したり、官吏・役人の民衆に対しての高圧的な性質を心底嫌悪したりしています。西洋の思想を志しながら、若いころ捨てた儒、儒教的な道義・仁義が中枢にあるようで面白い。思想というよりも、要は「曲がったことが我慢ならん」性格をしてるんですね。金の貸し借りも大嫌い。とにかく自分の価値基準に一貫して忠実です。
別の視点でみると、精神的な脆さがまるで垣間見えないので、人間味に欠ける印象です。親友はべつにいない、他者に直接怒りをぶつけたことがない、他人にどう思われようとまるで気にならないなど、どこまで聖人君子なんだよ!と少し思いました。

属す組織や家柄などをもって自らを何者かだと思わず、あくまで尊厳をもった個人として己を高めなさい。僕なりに福沢諭吉の「独立」の思想をシンプルに解釈するとこうなります。この自伝を読む限り、福沢諭吉の高潔な人生はその思想からまるで逸れるところがない。

面白かったのは、あれだけ独立不撓、不撓不屈 の精神をもって学問の求道者でありながら、自分の子供には勉学なんてどうでもいいよと言っているところですね。育児に関しては「まず獣身を成してのちに人心を養う」と言っています。子供は元気腕白が一番ということ。のちに留学する息子には、勉強しすぎて青白くなっちゃうくらいなら、筋骨たくましい無学の男になって帰ってくるほうがよっぽどいいと言ったり。このあたりにも強い信念がある。

学ぶところが沢山ある偉人です。
ただ巷で見かける「歴史上の人物から学べ」的な書籍から受ける印象と異なるのは、龍馬や勝海舟や信長や家康や上杉鷹山などが、政治的社会的な切り口でそこからビジネス上の社会性や外交能力、組織内での処世術やリーダーシップを抽出されているのに対し、福沢諭吉から吸収できるのは、それとは対極、つまり経済的社会的な「利」を得ることを目的としない、自立し自律する個人の品格、とでもいうべきものでしょう。やはり名だたる歴史上の人物の中に並べてみても、異彩を放ちますね。勿論あの変革の時代であればこそ出てきた1人であることは確かです。

個であること、これは高度消費社会に生きる我々にはなかなか理解しがたいし、また実践することが難しいことだと思いますが、こと教育について言えば、僕は自分の子供たちに「価値観の多様性」こそを教えていかなくてはならないと常々肝に銘じているので、一元的なモノの考え方にとらわれないよう、これからもアンテナを絶えず動かしながら自ら学ぶことを継続していかなくてはと思いました。以上が『福翁自伝』の感想です。

---

ちなみに病院や銀行、郵便法、徴兵令、選挙制度、議会制度などを「輸入」したのはこのひとなんですね。男女の地位を平等にし、一夫一婦制を強く主張したり、あの時代にこのお方がいなければ進歩の遅れた事というのはたくさんあるでしょうね。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。